SIerからWeb系企業に転職するとなぜしがなくなるのか組織的な観点から調べてみた
この記事は #しがないラジオ 2 Advent Calendar 2018 - Adventar の24日目の記事となります。
この記事について
私は2018年の5月に約3年勤めたSESをビジネスの主体とするSIerを辞め、HRを主とするWeb系ベンチャー企業にサーバーサイドエンジニアとして転職しました。
転職後の開発組織ではSIer時代とは比べ物にならないくらい楽しく仕事ができていたり、転職後の会社でちょうど組織体制の変更などもあり、開発組織と組織論というものに興味を持ちました。
本記事では組織論的な観点からエンジニアにとってどのような組織が楽しく働きやすいかということについて、State of DevOps Report というレポートおよび上記レポートの日本語訳であるLeanとDevOpsの科学という書籍、さらに自身の経験を元に書いていきます。
SIerからWeb系の企業に転職したい人やよりよい組織を探していたり、作っていこうとしている人の参考になれば幸いです。
TL;DR
- 官僚的な(ルール志向の)組織より創造的な(パフォーマンス志向の)組織の方が、燃え尽きが少なく、職務満足度も高い
- 個人的経験からSIer時代は燃え尽きに陥る原因が多くあり、転職後のWeb系企業では燃え尽きに陥るようなことは少ない
- これから転職する人はDevOpsやLeanのプラクティスを取り入れているかどうかである程度その組織が創造的かどうかを見極めることができる
目次
私について
SIer時代(2015/4 ~ 2018/4)
2015年に新卒でSESをビジネスの主体とするSIerにエンジニアとして入社しました。 約2ヶ月の研修を終えたのち、約3年間お客様先に常駐し、飲食系Webアプリの改修や保守・運用などを行なっていました。
常駐先では自社以外に様々なSIerが入っており、SIer間での政治的な取引も多い現場でした。
開発フローはウォーターフォール型で、月一度リリースがある現場でした。
組織体制はいわゆる官僚型の組織で、リリース時などには基本的に許可が必要な組織でした。
Web系ベンチャー時代(2018/5 ~ now)
2018年5月に転職し、HR系のWebベンチャー企業に転職しました。
今は求人検索プロダクトの主にサーバーサイドとインフラ周りのエンジニアをやっています。
転職前に常駐していた企業とは異なり、今の組織ではSIerに開発を外注することはなく、プロダクト開発は全て自社の社員で開発しています。
開発フローはスクラムを用いており、1週間のスプリントで開発を行なっています。
組織体制は官僚的な組織になりつつありましたが、スクラム導入とともに自己組織化された組織となるべく絶賛組織改革中です。
組織の種類
さてここから組織について踏み込んでいきます。
先に紹介したState of DevOps Report というレポートは名前の通りDevOpsについての調査レポートです。
レポートではDevOpsやLeanのプラクティスを使用することでより開発を加速させることが可能ということが調査結果を元に書かれています。
そしてこのレポートの中でDevOpsやLeanプラクティスを用いることでより創造的な組織にできるということも書かれています。
このレポートでは米国の社会学者Ron Westrumが定義したモデル を使用しているため、まずその組織モデルについて紹介をします。
タイプ別にみる組織形態
Ron Westrumは自身の研究から組織は3つのタイプに分類できるとしました。
- 不健全な(権力志向の)組織
- 官僚的な(ルール志向の)組織
- 創造的な(パフォーマンス志向の)組織
上記の組織は下記の表にあるような特徴を持ちます。
不健全な(権力志向の)組織 | 官僚的な(ルール志向の)組織 | 創造的な(パフォーマンス志向の)組織 |
---|---|---|
協力態勢が悪い | ほどほどの協力態勢 | 協力態勢が確立 |
情報伝達を阻止 | 情報伝達を軽視 | 情報伝達に熟達 |
責任逃れ | 責任範囲が狭い | リスクを共有 |
仲介を阻止 | 仲介を許容 | 仲介を奨励 |
失敗は責任転嫁へ | 失敗は裁きへ | 失敗は調査へ |
新規性を潰す | 新規性を問題化 | 新規性を実装 |
これらのタイプの中で、創造的な組織であればあるほど、組織のソフトウェアデリバリのパフォーマンスは上がり、職務満足度を向上させることが明らかになっています。
組織のあり方が職務満足度を変える
創造的な組織であるほど職務満足度を向上させるという点についてもう少し細かく見ていきましょう。
燃え尽きを防ぐ
燃え尽き(バーンアウト)とは、過労やストレスによる心身や感情面での極度の疲労のことをさします。
燃え尽きの原因には以下のような理由があります。
- 過重労働(働かせすぎ)
- 自律性の欠如(自分の仕事の意思決定を自分ができない)
- 不十分な報奨(経済的、社会的、組織的な見返りが不十分)
- 人間関係の断絶(精神的な支えがない)
- 公平性の欠如(意思決定のプロセスが公平性にかける)
- 価値観のズレ(個人の価値観と組織の価値観が一致しない)
創造的な組織は燃え尽きの原因である過重労働や人間関係の断絶、価値観のズレなどを多くの場合は解消できます。
組織内での協力態勢が確立していたり、本質的でない仕事を極力無くしていることが予想できるからです。
職務満足度
創造的な組織は燃え尽き防止のみならず、職務満足度をあげることも調査結果から明らかになっています。
具体的にはより創造的な組織ほど以下に賛同できることが明らかになっています。
- 他ならぬ今の組織を職場として選んだことを嬉しく思っている
- 自分の組織は職場として最高だと友人に話している
- 自組織の成功のためには、期待させる以上の貢献努力を惜しまないつもりだ
- 自分の価値観は組織の価値観にとても近い
- 自分の組織の構成員は総じて同じ1つの目標を見据えて作業を進めている
- 組織は私のことを気にかけてくれている
個人的経験からみるSIerとWeb系の働き方の違い
こうして組織について調べる中でSIer時代は燃え尽きになる原因が職場においてとても多かったと気づきました。
対照的に今の働き方では燃え尽きることはほとんどなく、楽しく働けています。
SIer時代
- 納期が近くなれば過重労働になることもある
- 会社間の政治などで自身の仕事について意思決定できない(新規技術導入など)
- 金銭的な報酬や技術的な学びは多くない
- 各社の政治的やり取りから現場における意思決定に公平性や合理性いがない
- メンバーとの会話はそこまでない。少なくとも精神的な支えにはならない
Web系ベンチャー時代
- リリースをコントロールしているため過重労働になることはほとんどない
- 自身やチームの仕事についての意思決定は当事者が行う
- 日々チームメンバーと協力しながら仕事を行なっているため人間関係の断絶に陥ることもない
- プロダクト全体や組織全体に関わる意思決定の場は組織の全員が参加することができる
- 金銭的な報酬と技術的な報酬も前職より貰えており、市場全体と比較しても妥当な額である。
これから転職する人が気をつけるべきポイント
State of DevOps Report ではDevOpsとLeanのプラクティスを行うことで組織をより創造的にさせること示されています。
DevOpsやLeanのプラクティスを導入している企業は創造的な組織になっている可能性が高く、より楽しく働ける組織になっていることが予想できます。
これから転職をする人(特にSIerからWeb系に転職しようとしている人)は以下のようなことを確認することで転職しようとしている会社の開発組織がどの程度創造的か測ることができると思います。
技術的な面
- 継続的デリバリを行なっているか
- 継続的インテグレーションを行なっているか
- コードのバージョン管理を行なっているか
- テストを自動化しているかどうか
- トランクベースの開発を行なっているかどうか*1
- チーム外の人物の許可なく開発者がリリースできるか
- 通常業務時間内でリリースができるか
- ツールの選択権限がチームに与えられているか
事業的な面
- 顧客フィードバックの収集と活用を行なっているか
- 1週間未満で作業ができるような細分化が行われているか
組織的な面
- 創造的な組織にしようとしているか
- 学びと奨励を支援しているか
- チーム間の協働の支援と促進を行なっているか
最後に
明日でAdvent Calendarラストです!
トリを飾っていただくのは zuckey_17 さんです!
参考資料
LeanとDevOpsの科学
LeanとDevOpsの科学[Accelerate] テクノロジーの戦略的活用が組織変革を加速する (impress top gear)
- 作者: Nicole Forsgren Ph.D.,Jez Humble,Gene Kim,武舎広幸,武舎るみ
- 出版社/メーカー: インプレス
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